ボクサーエンジンの癖

BMWに限らず、シャフトドライブのバイクには癖があるといわれます。またBMWやMoto Guzziのような縦置きクランクのエンジンにも癖があるといわれます。この癖が、BMWが敬遠される理由の1つになっている場合も多いように見受けられます。
具体的にはアクセルオン・オフ時に車体が左右に傾く現象を指すのですが、通常の走行時にネガティブな要因になるほどのものではありません。ただ、知らないとびっくりするのは事実ですし、人によっては受け入れがたい現象であるかもしれません。今回はそんなボクサーエンジンの癖についてお話します。

クラッチを切っている場合

停車中、クラッチを切ったまま軽く空ぶかしをします。すると車体が右へ回転しようとするのがわかるはずです。注意して観察すると、アクセルを開けたとき右へ、閉じた時に左へ傾こうとします。
停車中、シートに跨って両足が着地している限りは害のない単なる揺れにしか過ぎませんが、片足のつま先しか着地しない小柄な人はアクセルオンで一瞬足が浮くかもしれないので要注意です。また、エンジンをかけたままの取りまわしにも気を使います。普通、車体の左側に立って押し歩きをしますが、ここで迂闊にアクセルを開けてしまうと車体は右に倒れようとします。つまり人間から遠ざかる動きになるので、知らないとびっくりすると思います。
問題になるのはコーナーを「攻める」場合です。国産の直4エンジンよろしく、コーナー入り口でハードブレーキングしながらシフトダウンする状況を考えてください。シフトダウンするときは、普通クラッチを切って空ぶかしをしてエンジン回転を合わせると思いますが、ここで件の癖が顔を覗かせてきます。コーナー手前の直線部分でならまだマシですが、車体をバンクさせている最中に迂闊にシフトダウンすると、左コーナーでは車体が起き上がり、右コーナーではさらに倒れこもうとします。これは慣れれば何とかなるような問題ではなく、かなり危険な状況を招きます。つまり、コーナー手前の直線部分でしっかり減速とシフトダウンを済ませるという、極めて基本に忠実な乗り方が要求されているわけです。

クラッチを繋いでいる場合

今度は走行中、左手をハンドルから離してアクセルをオンオフしてみます。すると先ほどと同じく、車体が左右に揺れるのがわかるはずです。注意してみると、先ほどとは逆に、アクセルを開ければ左へ、閉じれば右へ傾こうとします。
直進時には、ハンドルから手を離さなければ感じられないほど微妙な現象ですが、これを意識してコーナリングに応用すると、非常に横着な乗り方が楽しめます。
普通のバイクでコーナーを曲がるには、それほどハイアベレージでなくともシートの着座位置をずらして体重移動して車体をバンクさせると思いますが、BMWではアクセルオンオフを利用することで、体の動きをかなり抑えることができます。左コーナー入口でアクセルオンしながら進入すると、車体が自然に左へ傾きます。右コーナー入口ではアクセルを少し戻してやると、車体が自然に右へ傾きます。よほどのハイペースでない限り、体重移動は必要ありません。もともと低速トルクが有り余っているエンジンなので、例えば国産の直4スーパースポーツとバトルする状況でもない限り、シフト操作も必要ありません。本当に右手一本で、たいていのコーナーは難なく通過できてしまいます。
但し、水冷4気筒エンジン搭載のKシリーズでは、同じような縦置きクランクにシャフトドライブという構成ですが、エンジンにバランサーが付いているために癖が非常に抑えられており、そのためにこのような技は使えないそうです。

慣れるためには?

このような癖があるためにBMWを嫌っている方も多いことと思います。いろんな雑誌やWebを見ていると、「腕・肩の力を抜けない人」がこれらの癖に強い違和感または嫌悪感を覚えておられるように見受けられます。いわく、曲がらない、疲れるバイクだと。
BMWなんかオヤジバイクだから乗りたくない! という方々は現在のところはおいといて、本気で乗ってみたいと考えているなら、腕と肩の力を抜くことから始めればいいと思います。腕・肩に不要な力を加えないことはどんなバイクにも共通する基本ですが、BMWは日本車のように「誰がどのように乗ってもそれなりに」とは走ってくれませんので特に重要な項目ではないかと思います。まずは肩の力を抜いて、これらの癖を安全な場所で十分に味わってみることです。そうすれば、取り立てて騒ぐほどのこともない、些細な現象だと思えるはずです。

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