<大型二輪教習日記>
1999/10/16
1998年11月〜12月にかけて教習所に通っていた当時の記録です。
すべて教習日の翌日から3日以内に打ち込んだ、まさに「生データ」です(少々の誤字訂正のみ)。

中免ライダーの皆さんに、「大型免許を取るって、大した事ないんだ!」と思ってもらえれば幸いです。

そうやって大型乗りが増えてくると、国内向けにももっと魅力的なバイクが増えてくるはず。
そうなれば、わざわざ高い手数料を払って逆輸入車を買う事もなくなる...かな?


 会社の帰り、いつものバス停を通り過ぎて京急川崎駅へ向かう。それも通り過ぎて、ヨドバシカメラも通り過ぎて、自動車学校の入り口をくぐった。あのぉ、大型二輪の教習を受けたいんですけど、ということで話を聞いた。「夜間」のコースがあり、夜9時(開始は8時)までやっているとのこと。しかし今の仕事の状況では金曜日くらいしか平日は空いてない。それでも金曜日の夜に2時間かせげればよし。その他、金銭的な話を少々して、必要書類と案内を一式もらった。
 次の日は祭日で車校はお休みで、休み明けに必要書類を提出。ついに念願の大型二輪教習のスタート。帰ろうとすると、「福引きやって」という。なんだかなぁ、と思ってがらがらと回したら赤い玉が出た。何が当たるの?と聞く前に、職員さんたちから一斉にどよめきが。なんとPASが当たったんだ。YAMAHAの電動自転車のPASが! どうすんだよ、いらねぇよ。そうはいってみたが「なんとか持って帰って」と押し切られ、教習初日に持って帰ることにして預かり証をもらった。


 教室に入り、免許更新の時の講習で見せられるような心臓に悪い映画と、中免取った時にもやらされたよくわからない性格分析テストで1時間を潰した。テストは二週間後に結果が分かるとのこと。学科の第何段階だかに説明があるそうだが、自分のような免有り学科免除はどうするんだろう?

 帰りにPASを受け取って帰ろうとしたところ、係員のオヤジに「印鑑は?」と言われ、すんません状態に。「物を受け取るのに印鑑持ってくるのは常識だよなぁ」と文句を言われながらも、サインでOKだった。「あんた、ついてるねぇ」と何度もいわれたが、ちっともそんな気がしない。どうせなら入学金を半額にしてくれるとかの方が実用的でありがたいのに。もしかしたらPASも不景気で余ってるのかなぁ。

 帰る途中で少しだけ電源を入れてみたが、楽なのか何なのかよくわからない。踏み込むと、小さな唸りとともに言葉にできない感覚が足元を襲う。違和感バリバリ。で、帰り着いて置く場所がない。仕方なく台所にスペースを作って持ち上げようとすると、重い!なんじゃこりゃ? 片手じゃぁとても持ち上げられないんだよ。とにかく半端じゃなく重いんだよ。ほんとにこれ、自転車か? 一瞬のうちに、「二度と乗るか!」と心に決めた。


 いよいよ取り回し&コース外周。車両はCB750。俺の嫌いな空冷4発! まずは押し歩きからスタート。サイドスタンドをはずしたとたん、これまで未経験の超重量感。重い!冗談じゃない!それから数十メートル歩いたところの路上に8の字が描いてある。8の字歩行だ。きつい!とんでもなくきつい!足がふらつく。8の字が終わるとセンタースタンド掛け&外し。これはまぁ以外と余裕と思ったら、「外す時はブレーキに手を掛けて!」の声が飛んできた。さらに教官殿はおもむろにバイクを倒した。引き起こしだ。重い。ハンドルとシート下に手を掛け、起こそうとするとズルリと前に滑る。ブレーキレバーを握りながら何とか起こせた。

 ここまでですっかり息が上がっているのに、今度は乗車。教官殿の後をつけてとりあえず時間まで外周をゆっくりと回る。おもむろにアクセルを開け、慎重にクラッチを繋いで発進。おおっ、こりゃ楽だ。これまた未経験のトルク&パワー。こいつ本当は電動モーターで動いてるんじゃないか? 日ごろTZR後方排気に乗っている2サイクル派の私にはまさに異次元の感覚。直線に入り、40キロまでスピードアップ。おおっ。これまた感動の加速。TZRのような体ごと後ろにもっていかれるようなロケット加速ではないが、いつのまにかスピードに乗っている。直線の終わり、いつものようにアクセルを戻しながらシフトダウン、すると突然襲い来るエンジンブレーキ!体が前に持っていかれる! こっこりゃまいりましたぜ。さすがに4サイクルのナナハンだ。中免取った時のVFRを思い出した。

 2周ほどしたところでようやくバイクになれた。さすがに2サイクルとはいえ現役ライダーの強みだ。徐々に周囲を見渡す余裕が出てきた。うん、結構みんなへたくそだな。そういえば中免取りの人たちって、当たり前だけどほとんどが未経験者なんだよな。あちらこちらでエンストの嵐。俺はそういえば無免で乗ってて捕まったことがあるんだよな。罰金5万円也。さすがに払えなくて親父に泣き付いた。でもそのおかげ?で中免は補習なしでとっちゃったもんね。だからあの経験も決して無駄ではなかったと…思いたい。


 まずは軽くウォーミングアップ。さすがに昨日の今日で、あんなに重いと感じたCBも、今日は思った通りに操れているような気がする。教官殿の後について外周をしばらく回った後、クランクとS時を何回か通って一本橋とスラロームに挑戦だ。

 この日はもう一人のお兄ちゃんと一緒だったが、かわいそうなくらいへたくそなんだこれが。最初のうちは恐る恐る何とかこなしていたんだけど、終盤は疲れが見えちゃって、一本橋は2回に1回位落ちるし、スラロームの端っこではパイロンを倒した上にエンストしちゃうし、そこからスタート地点に戻る坂道を下ったところで転倒しちゃうし。もー見ちゃいられない状態だったわ。かく言う自分も転倒やパイロン接触はなかったけど、一本橋で時間の限界に挑戦していたらエンストこいちゃった。さすがに焦ったわ。この重さで一本橋でエンスト!こりゃもう転倒を覚悟したわ。でも何とか下に足がついたんで、おもむろにセルスターターを押したわ。でも回らないんだわこれが。クラッチ切ってるはずなのに!なんでじゃ?どうしてじゃ? で、結局ギアをニュートラルに戻してようやく再起動、脱出。今考えると、もしかしたらクラッチ切ってなかったのかも知れない。

 というようなことを繰り返している間、中型のもう第三段階に進んでいるはずの男の子が一本橋をクリアできなかったり、エンストして発進できなかったり。また女の子が急発進で吹っ飛ばされそうになったり。いや、笑っていいものか、悪いものか。


 続けて一本橋とスラロームと坂道発進の練習。さすがになれちゃって、余裕やと思っていたら、「一本橋はハンドルでバランスとって!」との厳しい一声。でも「タイムは十分出てるから」の言葉に少し安心。そうするとあとは乗車姿勢だな。それにしても坂道発進の楽なこと楽なこと!TZRとは比べ物になりませんわ。だってTZRってば、普通の平地で発進しようとしても時々エンストしちゃうんだもん。高性能2サイクルの宿命やね。いいオイル食わしてやってんのに。いやぁ、それにしても楽だ。スラロームの終点から右折しながら坂道を駆け上る。ここのギューンという感じがたまらないやね!そのスラロームだって、まだ多少はとっちらかるけど、図太いトルクに物を言わせて何とかなっちゃうんだな。あとはもう少し慣れれば。なんたってまだ3時間目なんだから。

 気合いを入れて練習していると教官殿から「さっきやったクランクとS字も組み合わせて」とのご指示。教官殿について外周を回り、その彼氏と思っていたバイクについていくと、真横から教官殿に「おい、どこいくんや?」と怒鳴られた。あれ?よくみると、前にいたのは中型の人だった。こりゃ失敗。しばらくするとようやく事態が飲み込めた。さっきの彼氏とは別メニューだったんだね、これがまた。こっちが進んでいるわけはないから、あっちが補習を食らったんだろうな。あぁ、かわいそうに。一時間4500円+消費税也。2、3周は教官殿について回っていたが、そのうち「一人でやって」モードに切り替わってしまった。

 この日は中免も含めて何かしら異様に下手な人ばっかりが乗ってたみたいで、教官殿が数人で一本橋とパイロンのコースに固まっていた。結局、一人でさびしく走っているうちにチャイムが鳴り、気がつくとコースに一人だけ取り残されていた。なんだかなぁ。ちょっと悲しかった。でも次は来週なんだよなぁ。あぁ、この感触を忘れちまいそう!


 先週に引き続いて「練習コース」と呼ばれているらしい、組み合わせコースを走った。時々教官殿に「交差点は中心から2m以内」とか「ここは徐行」とか注意されながら、パイロンを2、3回倒しながら、何とか終了。この日はなんとなく体調がすぐれず、悪戦苦闘だったが、別にたいしたこともなく終わった。

 と思ったが甘かった。終了後、教官殿から「あなた飛ばし過ぎ」「徐行全然やってないじゃない」「3段階で苦労しますよ。そんなんじゃいつまでたっても終わんないよ」「免許持ってんだから、バイク上手に操れるのはわかってんの。法律を守った運転をきちんとやんないと駄目」「試験でも[交差点で右左折するときは徐行する]にはマルつけるでしょ」等々と、きついお叱りの言葉。「クランク出たところ、フルバンクでビューンと曲がっていくんだもん。あなただけよ、あんなの」といわれた時にはさすがに顔中に血が集まっていくのがわかった。「5年もバイク乗ってて、なにやってたの?」といわれたのと同じことだ。まずい。これはまずい。中型取った時も、こんなこといわれたことはなかった。確かにTZRに換えてから、ゆっくり走るのが苦痛なので飛ばしがちだったのは間違いない。しかしそれにしても、あそこまで面と向かっていわれるとびびってしまう。さっそく、夜にラーメン食べに行くついでに綱島街道近辺で練習した。

 しかし部屋に戻って冷静に考えてみると、先週まで同じことをやっていたのに何も言われなかったわけだ。もしかするとお決まりの脅し文句なのかもしれない。あるいは教官殿が「いい人」だったのかもしれない。


 昨日の今日で、半分びびりながら教習開始。外周を2周したところで教官殿に止められ、「次は一本橋・スラローム・坂道ね」と言われ、S字を抜けてすぐにそちらに向かったところでいきなり後ろからクラクションを鳴らされた。「ありゃー、今のコースをあと一回やってから、のつもりで言ったんだけど…」といわれ、早くもすみません状態に陥ってしまった。さらに最初のスラロームで止められ、「指がクラッチにかかってるよ」え?全然気がつかなかった。こりゃちょっと間抜けだった。

 それから延々と一本橋・スラローム・坂道発進の繰り返しが続いた。とはいえ他の教習車がいるので坂道から一本橋に戻るところで大抵引っかかって待つことになる。対向車線の車が坂道でもたもたしていると、後に続いていた車の教官殿が手を振って前を通してくれる。そんなことを何回ともなく繰り返していたが、何回目かの時、車の後ろからバイクの一団が来ていた。しまった、見てなかった!と思ったが遅かった。「こらー!どっちが優先だよ!」その集団の教官殿に思いっきり怒鳴られた。「こっちは今日初めて乗る人ばかりなんだから、あんなことやったらびっくりしちゃうでしょ」といわれてみると、赤ゼッケンの中型第一段階の人たちだった。ひたすら恐縮。「ごめんなさい」を4回か5回は繰り返していた。
 

 最後に「練習コース」を2周してようやく終了。教官殿に「上出来」といわれた。そういえば、今日はパイロンにも当たらなかったし。検定コース図を渡され、次までに1コースを覚えてこいという指示を受けてようやく長い1時間が終わった。とりあえず、第三段階の3時間分を予約。例によって土・日の2日間で2時間しか乗れない。すんなりいって12月の最初の週で第三段階が終わる計算になる。次からはキャンセル待ちでもやってみるかね?


 一週間がたち、ようやく第三段階の1時間目スタート。同じく3−1のお兄ちゃんと一緒に、まずは教官殿について「検定コース1号」を走る。スタート前、教官殿曰く、「一回しか手本見せませんから、しっかり見てくださいね」。第二段階で別の教官殿から「苦労するよ」と釘を刺されているので緊張が走る。
 さて、右合図を出してスタート。おおっ、豪快な加速。そして滑らかに針路変更。コーナーでは鬼のような徐行。そして曲がり終えると短い直線をまた豪快に加速。そしてまた止まりそうなほど遅い徐行。なるほど。これがメリハリというやつですか。信号や一時停止でもすばやい後方確認。首の回りが早いんだこれが。そして真後ろにいる自分にもしっかりと顔が見える。なるほど。確かに、仕種の一つ一つがいちいち我々とレベルが違う。

 続いて我々の番。慎重に、慎重に。慌てない、慌てない。2セットほど走ってスタート地点に戻った。もう終わりの時間かな。ちょっと物足りなかったな。と思ったら、「二人とも全然駄目。はっきりいって、なってないよ」ときつい一言。「針路変更の合図は何秒前?」…沈黙が続く。3秒前ですと自分が答える。「右左折の合図は?」…30メートル手前です、とまたも自分が答える。横のお兄ちゃんは黙ったまま。おい、何とか言えっての。さらに教官殿が責める。「カーブとか交差点とか、私、バンクさせてた?」…いえ、させてません。「何で?」…徐行だからです。「そうでしょう? わかってんだったらちゃんとやってくださいよ。免許もってんでしょ?」その通りです。でも俺はやってたと思ったけどなぁ。「徐行の速度は?」…10キロです。「10キロ以下だからね。出てたらまずいのよ。メーターで確認してね」…うっ、確かに見てませんでしたわい。というようなやりとりの間、やっぱりお兄ちゃんは黙ったままだった。
 ひと問答終わって、ようやく教習終了。教習原簿を返してもらう時、教官殿がお兄ちゃんに向かって、「ほら、あなたやっぱりツケがきたでしょう」なるほど、第二段階の時に当たった教官殿だったわけか。それじゃ何もいえんわな。今日のお説教はどちらかというとそっちのお兄ちゃんに向けられたものらしかった。

 帰り道、TZRで交差点徐行を練習しようとすると…だめじゃん!エンストこいちゃう!しかもバンクさせないと全然曲がってくれない。メーターを見ると20キロ近くは軽く出ている。しばらく街中を流して練習してみたが、はっきりいって「駄目だこりゃ」。エンジン腐っちまうがね。どうしよ? しかし補習は食らいたくない。で、鶴見のイトーヨーカドーで今更ながら「大型二輪合格のコツ」みたいな本を1000円出して買って帰った。


 この日は昼12時からの教習。しかし目が覚めたのは10時前。駄目だ、体が重い。無茶苦茶しんどい。それでもキャンセルするわけにはいかない。無理矢理バイクを引き出して、1時間も前に車校に着いた。だんだん体が温まってくる。と、同時に寒い!来る時は全然気が付かなかったが、風がやたらと強くて体感温度が余計に低く、雪でも降るんじゃないかと思うほど。そんな中、教習開始。

 今日はまた別のお兄ちゃんと一緒に走る。お兄ちゃんが前、私が後ろ。まずはスタート。おい、右合図出してないぞ?で、少々遅れて自分もスタート。右へ車線変更、徐行。おいおい、早いって。ここ、徐行だべ? 外周を1周して次は坂道。と思うと後ろからクラクションを鳴らされ、「ここまでは左に寄って下さい」と注意を受けた。そして坂を越えて下ったところに一時停止。げっ、停止線踏んじまった。慌てて後ろに戻す。やべぇやべぇ。教官殿は笑いながら、「そうそう。踏んじゃだめだからね。検定中止だから」そうなんです。ちょっとした事だがここでも5年間の癖が出ている。続いて右折して踏み切り。げっ、左から車が来てた。やっべぇ。「今のは行かないほうがよかったね」はい、その通りです。そして踏み切りではまたもや停止線を踏んでいた。うーん、一回ミスるとハマるのは、私の悪い癖。ゲームでも仕事でもなんでもそう。ほんと、はまるとなかなか抜けられない。前のお兄ちゃんはすいすいと先に行く。スラロームなんかもなかなかうまい。自分もその後しばらくは何とか無難にこなし、最後の課題走行ラッシュ…と思ったら、最後の最後のはずのS字コースに入ってしまった。ひえぇ、コースミス! 強引に戻るかそのまま行くか、ちょっと止まって迷っていたら、後から中型の人がやってきてしまった。ええい、ままよ。そのまま続けてしまった。その後、もう一度回った。それにしても車が多い。信号は青なのに前に大型車が2台も止まっていて、入るスペースがない。と思ったらお兄ちゃんは大型の右端をすり抜けていってしまった。おいおい、あぶねぇよ、と思ったところで信号が赤になった。教官殿は特に何も言わない。あれはあれでいいの? まぁいいや。私は私。そしてスタート地点に戻ったところで時間切れ。うーん、物足りない。コース内に車が多すぎて、正直言って、走っている時間と止まっている時間のどちらが長いのだろう?と考えてしまうほどだ。

 原簿を返してもらう前に本日の注意事項。停止線の件と交差点ショートカットとコースミスの3点で、他には特になし。そりゃそうだろ。徐行には特に気をつかったもん。で、もう一人のお兄ちゃんへの話を始める前に「ご苦労さん」と原簿を返された。あれ?いつもとちがうな?まぁいいや。12月からカリキュラム変更とかでごった返している受付に原簿を返してバイクのところまで戻り、ヘルメットをかぶったところで小便がしたくなった。寒いからなぁ。無理もない。そしてヘルメットを脱いでホルダーに付け、荷物をタンクからひっぺがしていそいそと戻った。結構間抜けだ。二輪控え室前を左に曲がるとトイレ。というところでさっきのお兄ちゃんとすれ違った。あれ?まだ話をしていたの?あれから5分くらいはたってんべ?何かお説教を食らっていたのかなぁ。やだなぁ。もしかしたら補習でも食らったのかなぁ。やだなぁ。しかし私は教習帰りのその足で、佐野ラーメンを食べに行くべく首都高速を目指すのだった。


 月が変わり、カリキュラムも変わったらしい。そんなことは露知らず、車校に着いて教習原簿を見ると、何やら怪しげな用紙が貼り付けてある。第二段階?自分はもう第三段階の終わりのはずだけど、なにこれ? そして受付を済ませて控え室に入ると、ゼッケンの色が赤・黄の2色しかない。なんだこれ?一体何が?そういえば掲示板に「現在1・2段階の人は云々」と貼り出されていたが、自分はもう第三段階なんで関係なかろうと思って見てなかった。不安。

 そして教習開始。不安を裏付けるように、のっけから「急制動やるから」。なにぃ!?あれって、第四段階じゃなかったっけ?まあいいや。外周を回り、波状路・一本橋・スラロームとこなして…おっと、いきなり一本橋で落車。だめだ。寒い。体が縮こまって、バランスが取れない。そして一時停止場所で教官殿から説明を受ける。「3速、時速40キロからブレーキかけます」うん。知ってます。まぁ、大した事ないやね。そして直線を走ってその場所へ。「ここ、傷があるでしょ」と、路面を指差される。確かに擦り傷がある。「これ、大型の人がこけた傷なんです」えぇ?「中型の人はびびってそこまでスピード出さない。大型の人は出来るだろうと思って出しちゃって、こうなるんです。だから最初からここで止まろうとしないで下さい」へぇ、そうなの。しかし半分聞き流していた。

 もう一周して今度は実際にやってみる。発進して1、2、3速。スピードメーターで確認。パイロン通過、ブレーキ! げっ、とっ止まらん! 2mくらいオーバーしてしまった。マジかこれ?ホンマかいな?難しいぞこれは。冗談抜きで。それでも教官殿は「上出来上出来」と手を叩いている。うーん、普段TZRのよく効くブレーキになれているので、レバーを思い切り握る感覚がわからない。3回トライしたが、3回ともオーバーしてしまった。しかも2回目は「ブレーキ握るのが早い」といわれてしまった。

 そこまでやったところで教官殿は400の教習者をおもむろに引っ張って来た。「今度はこれに乗ってやってください」という。400なんて久しぶりだ。直4の400って、初心者講習の時のCBR以来だ。いきなりエンスト。全然トルクがねぇ〜。教官殿は苦笑い。それでも何とか走り出す。軽い。さっきまでのCB750と比べたらオモチャみたいに軽い。そしてパワーもトルクもない。TZRよりも遅いぞこれは。そして同じように急制動をかけるが、余裕で止まれる。2回やったが2回とも余裕で止まれた。「違いがわかるでしょ?」はい。こりゃ大型の教習が厳しいわけだ。中途半端なブレーキテクじゃ、危ないだけだ。

 この日は終了まで延々と急制動の繰り返しだった。終了間際にようやく区間内で止まれるようになった。


 雨の教習。久しぶりに雨合羽を着込んだ。外周を4周した後、「今日は回避と不整地と小旋回をやります」ええ〜?この雨の中で回避〜?やめてくれよ、と思うがそんな訳にも行かない。

 まずは回避。「時速40キロで走ってきて、旗を振ったら右か左に避けてください。赤が右、白が左」はい。と、そこで教官殿は左手で赤旗を上げた。え?これは?「赤だから右でしょ。方向じゃなくて色ですからね」うーん、俺はこういうのが一番苦手なんだよね。2回トライ。なんとか指示通りに避けきれた。と思ったら「今度は30キロで」といわれ、3度目。のろのろと走りながら、教官殿が赤旗を右手で上げた。え?どっちだっけ?赤だから、でも右手で…あれ?いいんだよな?あれ?おいおい。しかし体は既に左に傾いていた。もう遅い。何と、遅いスピードで間違えてしまった。こりゃ恥ずかしい。

 次は波状路と不整地。大小の石が敷き詰められた区間を立ち姿勢でゆっくりと走る。こちらは特に問題なし。なにせTZRで林道を走っているから。しかしやはり重い。迂闊に力を抜くとハンドルを取られ、脱出に手間取る。最後に「座って通って下さい」ええ?あんなところを座って?こけるぞ、マジで。それでも何とか通過。

 そして続いて小旋回。8の字コースに出た。「あの8の字のコースの内側を通ってください」ええ?内側?8の字にそってじゃなくて?「そう。内側ね。じゃ、ついてきて」仕方ない。ええい、ままよ。しばらくは動きがギクシャクしているのが自分でも分かる。おっとっと、はみ出しちまう。そのうち目線がまずいことに気がついた。8の字、円旋回は円の中心を見て。そうそう。これですよこれ。基本中の基本。果たして教官殿が同じ事を言った。その後、しばらくハンドルの切り方とか体重移動の仕方について講釈があり、Uターンの練習。ハンドルを内側に切ったら体は外側に。これも基本中の基本だ。しかし案外出来てない。TZRなんかに乗ってるから?いやいや、基本はどんなバイクでも同じはず。心の中で反省。「クランクもこれを応用すれば、何でもないですから」で、続けてクランクを通る。確かに、今までよりも楽に通れた。最後に急制動。今日は雨だからもう一つ先の停止線。少しは余裕がある、と思ったが、またしてもはみ出した。「おいおい、オーバーしちゃ駄目だって」それはその通りなんですけどね。

 ようやく雨中訓練終了。回避と急制動は本当に難しい。TZRでヒラヒラと走ることに慣れていただけに、大型は全然曲がらない、止まらないという印象が強い。「回避でどれくらい避けてたか、わかる?」うーん、2mも避けてないですね。「そうでしょう。それと急制動で400に乗った?」はい。乗りました。「どうだった?全然違うでしょ?大型ってのは曲げにくいし、止めにくい。でもパワーがあってスピードはすぐ出ちゃう。云々」そのとおり。普通に走る分には問題なさそうに思えるが、ここを理解しておかないと大変なことになる。だから大型では特に「徐行」を徹底的にいわれるのだろう。ゆっくり走ることができないのでは単なる危険人物、バイクも凶器になってしまう。

 ともあれ次の時間はシミュレータらしい。その後は1号・2号の検定コースを走り込んで、いよいよ卒業検定が見えるところまでやってきた。

 アパートに帰って合羽を洗っていた。ふとポケットに手を入れると妙な感触。なんだ、鍵か。そのまま冷蔵庫の上に置いといた。しかし次の日に気がついた。あれは去年行方不明になって、鍵屋に1万2千円も出す羽目になったTZRの鍵のオリジナルだ。なんてこったい!今ごろ出てくるなんて。というか、合羽のポケットから出てきたんなら自分で入れたはずなんだが、一体どうしてこういうことになったのだろう? 確かに、あまり干したり洗ったりはしなかったが、それでも使用頻度はゼロじゃない。なぜだ?!そんでもって、いまだに全く心当たりがつかめない。それにしても悔しい。


 この日は本当は会社の忘年会だったのだが、休日にやってないうえにこれを通らなければ次に進めないのでやむなく受講とあいなった。3階シミュレータ室に入ると、何やら怪しげなマシンがおいてある。ゲームセンターで見かけるバイクゲームのあれだ。「1500万もするんだ」等々、教官殿が自慢話をしながら電源を入れると、3Dフルポリゴンの画像が大画面いっぱいに映し出された。

 「じゃあ乗って。操作は普通のバイクとおなじだから」といわれ、バイクにまたがっておもむろにエンジンをかけた。振動が伝わってくる。結構リアルだ。ミラーを見て後方確認。ん?後ろから車が。思わず後ろを振り返ってしまう。こりゃリアルだ。「右に曲がってください」という女性の声で指示される。前方の交差点には大型トラックが信号待ちで止まっている。左側に2mほどの隙間がある。ウインカーはついてない。よし、と隙間に入ったら、信号が変わる前にトラックのウインカーが点滅し、あっというまもなく巻き込まれてしまった。いやぁ、リアルだ。その他、何か危なそうな場所では必ず危なくなるようにプログラミングされている。交差点を曲がったら車がコンビニの駐車場から車道へ向かっていきなりバックしてきたり。夜、車の陰から無灯火の自転車が飛び出してきたり。霧の中、前方のタクシーが突然止まったり。圧巻は、交差点の黄信号を突っ切ると前方に止まっている車のドアが開き、さらに避けたところで対向車があり、それもよけると止まっている車の脇道から別の車が出てきて、さらに止まっている車は実は2台並んでいて、こっちから見えなかった前の車が突然発進してくるという、とんでもない複合状態だった。

 3人でかわるがわるシミュレータに乗り、教官殿がリプレイしながら解説する、といった案配で1時間が過ぎた。それにしても、あまりにもリアルだが全体的に感じる違和感のせいで、気分が悪くなってしまった。


 シミュレータに続いて、実際の交通シーンを想定した危険の種類とその見付方について、3人+教官殿でディスカッションという名目で始まった。例えば右折で何が起こるか?右直事故のパターンにはどのようなものが考えられるか?という問いに、3人がそれぞれ「歩行者の飛び出し」とか「対向車の直進」といった一般的な回答をする。教官殿は「まだある。私はプロだから300も500も挙げられる」といい、例えば犬が出てくる。猫が出てくる。子供かもしれないし、ボールかもしれない。云々。なんだ、そんなことならいくらでも言えらぁ。とは思ったが、まさかに言えるはずもないので仕方ないなという顔をしながら聞いていた。

 後半はもうディスカッションではなくて半分説教モードだったが、さっきの黄信号直進で、「普通ならあれだけのスピードが出ていたら止まれないから進んだ方がいい。しかし進むと危ない。それでも回避する方法がある。何か?」と問われて3人とも答えに詰まった。「あるんです。一番大事なことが」…何だ?あとは最初からあそこまでのスピードを出さないことぐらいしかないじゃないか…。「そう。その通り!」と教官殿が返した。「事故原因の殆どはオーバースピードなんです。だったら最初からスピードを落として走るしかないでしょう」それはその通りだが、しかし…。「時速40キロでの停止距離は何メートル?」と聞かれると、やはり答えられない。とすればやはりスピード控えめで走るしかない。一瞬のうちに「あと何メートルだから、今、時速xxキロだから60×60=3600秒で割って、秒速yyメートルで、するとここでブレーキをかけようとしてもあそこまでは空走で…」なんてことを考えながら走っていられるわけがないからだ。

 最後は信号機のある交差点での危険予測。どんな危険がある?どんなことが予測に使える?我々は2、3は挙げられるが、すぐに詰まってしまう。そこで「青信号の時、歩行者がいっぱいいるのといないのとでは、どっちが赤に変わるのが早い?」と聞かれると、そりゃあいっぱいいる方だと答えるが、そういう普段やってらぁと思っていること一つ取っても、わざわざ例を挙げて聞かれないと思い出せないのは、もしかするとやってないと同じなのだろうな、と反省した。

 ようやく教習終了。残り2時間を予約した。このまま何もなければ見極め→卒検。やっとここまできたという実感が湧いてきた。しかし先週も先々週もコースを走ってない。道順を忘れたわけではない。しかし教習所のコースというものは「あそこで右合図、ここで針路変更、ここで後方確認…」まで覚えていないと覚えているうちに入らない。さて、来週どうなるか。夜間の連続2時間を確保したが、なにしろ寒いからなぁ。また一本橋で落ちたらどうしましょ?


 夜の7時。寒い。ここ数日風邪気味で、なんとなく体がだるい。それでもこの時間と次の合わせて2時間を乗り切ったら検定だ。中途半端な緊張感を保ったまま教習開始。

 まずは「2号コース」を走る。もう一人の、第二段階に入ったばかりと思われるお兄ちゃんの前を走った。カリキュラムが変わったせいもあり、「覚えてね」といわれてから実に2週間のブランクをおいて初めて走る。とはいうものの、2周目と3周目の順番が入れ替わったことと、2号コースの2周目は先月までの第2段階(今は第一段階)でやった「練習コース」と同じになっているくらいの違いしかない。まぁ、余裕だ。と思った。

 1周した後、「針路変更が遅いですねぇ」と言われ、愕然となった。さらに追い討ちをかけるように、「交差点も早いですよ」。そんなぁ!?この見極め前に来て!?「じゃ、例を見せますから」と教官殿。後部シートに乗せられ、スタート。「スタートして、すぐ右合図、目視、針路変更」と教官殿は喋りながら針路変更し、止まった。「ここが約30メートルです。ここまでに右に寄ってなければなりません」うーん、思ったより距離がある。自分が思っていた地点の倍くらい遠い。そういえば、バイク1台がおよそ2メートル強だから、12〜3台分のスペースが必要なはずだ。そして交差点を右折。バイクが殆どバンクしていない。そのまま信号。ここもスタートしてすぐに右合図、目視、前を見るともう針路変更のタイミングになっている。もう一度右折。今度は自分がやっている例を見せてくれた。確かにスピードは出ていないが、曲がる瞬間に大きくバンク。そして向きが変わるとアクセルオン。こりゃ乱暴だ。うーむ、具体的にやってもらうと良く分かるが、私のTZRはそうやらないと曲がってくれないんだなこれが。悪いバイクに乗っていたと、つくづく思った。

 その他、坂道と一時停止、信号右折から次の交差点まで距離がない時のライン取りに注意を受けて、この時間は終わった。


 夜の8時。本当に寒い。教習前に食べたラーメンのせいもあるのか、微妙に腹が痛い。それでも乗るしかない。

 先ほどと同じくコースを走る。そして1周したところで今度は「まだ右左折が早いですねぇ」そ、そんなぁ!? これ以上ゆっくりは走れませんって!思わずそんなことを言ってしまった。すると教官殿は「クランクやります。ついてきてください」と言って走り出した。スタート地点からいきなり右折してクランクコースに入る。そこを止まりそうなスピードで進んで行く。出たらまたぐるりと回って再びクランクへ。何度も何度も繰り返す。曲がるたびに足を着き、倒れそうになる。体中もう汗だらけになっていた。汗? そうか、上体に力が入り過ぎているんだ。そう思って適当に力を抜いてみても、ニーグリップを効かせたつもりでも、やっぱり足を着いてしまう。駄目だ。全然うまく行かない。久しぶりに泣きそうになった。頭の中はもう補習モードになっている。まぁいいや。あと2時間くらい乗ればなんとかなるだろう。それにしても、ゆっくり走るだけのことがこれほど難しいとは。

 最後にもう一度2号コースを走った。課題走行は何も問題ない。波状路も一本橋もスラロームもS字も。クランクもそれなりで、苦手にしていた急制動も、すっかりコツを掴んでいる。それなのに、「徐行」という基本中の基本で躓くとは。旧第二段階の時に、「あなた第三段階で苦労するよ」と言われた記憶がまざまざとよみがえっていた。

 ようやく教習終了。もうこりゃ絶対に補習だなと思ったら、「みきわめ合格です」のお言葉。力が抜けた。思わず、乗り足りないですね、と言ってしまった。「じゃあ、また1時間追加しますか?」いえいえ、言葉のあやと言う奴で。とにもかくにも、ようやく検定を受けることが出来る。もう時間が遅いので受付が終了している。明日にでも来て、さっさと申し込んでしまおう。


 前日の朝9時頃に車校に出かけた。「いつがいいですか?」うーん、明日が空いていたらお願いします。「明日ですか。はい、いいですよ。ではがんばってください」というわけで、申し込みはあっけなく済んだ。

 そして当日。集合は午後1時20分。それなのに、妙に朝早くから目が覚めた。そうだ。練習しなきゃ。無駄なのはわかっているが、徐行の練習は早朝の空いた道路でしか出来ない。「交差点右左折は徐行」という建前は、今の交通状況の中では全く形骸化していて、街中でやろうものならクラクションの嵐を浴びるのは必至だからだ。そうでなければだいたい、あれほど苦労するもんか。港に出て、駐車場のスペースで小回りと8の字を練習。それから周辺の交差点で徐行の練習。さらに踏み切り、Uターンまである。休日の工業地帯というのは案外絶妙な練習コースだったかもしれない。体が温まってきたところで産業道路を大黒まで走り、第一京浜で川崎市内に戻った。あと2時間ほどある。とりあえず車校の駐輪場にバイクを止めてしまい、ヨドバシカメラで時間を潰していた。

 30分前に車校に戻り、呼び出しを待つ。呼び出された時に受験番号を言い渡された。1番。なにぃ!?よりによって、初っ端かい!?こりゃ終わったな。心の中はまたもや補習モードに。検定を受ける人数は、と見ると、十数人いる。その中の一番最初。もうすでにプレッシャーに潰されていた。

 それから二輪控え室にて待つことしばし、試験官殿のご登場。ありきたりの注意事項とともに、「今日は大型と中型、並行でやりますから」うーん、今まで見ていてわかっていたこととはいえ、一般教習の車両と中型の検定も同時に走らせるなんて。手抜きなのか、それとも一般道路を想定させるためなのか。「1番、三中里予(仮名)さん」はいっ。さっそく飛び出してバイクの点検を始めたところ、「点検はいいから」えっ…そうなんですか。また頭の中の作業順序が崩れて行く。とにかくバイクにまたがる…おっと、サイドスタンドを払ってから。そして右合図、後方確認、スタート!ところが前にいきなり車がいる。ええと、右折のタイミングは…。一旦合図を消し、しばらく遅い車の後をゆっくり走る。駄目だこりゃ。もう頭の中はパニックになっている。ええい、ままよ。これまで補習なしで来れた方がどうかしている。あとは教習所で費やした13時間と自分の5年間の経験に頼るのみ! 一瞬のうちにそこまで割り切った。

 とにかく順番だけは間違わないようにしなければならない。しかもコースはこれまたしばらく走ってない1号コース。えーと、2周目が坂道で、下りたところの停止線を踏まないように。そして3周目が苦手のクランク。とにかく目線を前へ前へ持っていくこと。そして出口では…おっと、右から車が来やがった。やばい、パイロンに当たるっ! おっとっと、でも大丈夫。ちょっとふらついたから減点10かな。

 4周目の課題は余裕でこなし、スタート地点に戻ってきた。何とかなるかもしれない、と思ったら1番ポールに別のバイクが止まっている。もうすぐ発進するみたいだが、ここで止まるか、先に行くべきか? ええい!迷った時は止るしかなかろう!で、2番ポールに止まった。いつものくせで左足がサイドスタンドを探る。待てっ!まずはエンジンを止めて、降車してからサイドスタンド。掛け終わった瞬間、後方を目視してなかったことに気が付いた。しまったっ!試験官殿はそのまましばらく何やら一人で頷きながら、採点表と思しき用紙にペンを走らせている。しばしの沈黙。そして「はい、終わりです」の声。脱力感に襲われながらも、ありがとうございましたの一声を絞り出して控え室に戻った。

 その後も試験は続いてゆく。しかし他人の様子などもう見る気がしなかった。控え室の折り畳み椅子に腰掛け、腕を組んでうつむいたまま、時をすごしていた。早く終わらないかなぁ。次の予約を早いとこ済ませたいんだけど。ああ、最後に一回振り向いていればなぁ。そんな事ばかりが頭の中を堂々巡りする。

 何時頃だったろうか、もうそろそろ残り少なくなってきたなと思った時、キキーッというブレーキ音に続いてドーンという鈍い音が聞こえた。なんだ、どこかで事故ったか。よくあることだ。別に気にも留めなかった。しかしなにやら回りの様子がおかしい。ばたばたと椅子を立つ音がする。もしかしてコース内での事故か?しょうがないな。誰だろう?誰だっていいんだが。窓の方を見ると、数人が右を向いている。S字の出口か、急制動か。順番待ちをしている人に尋ねてみる。「急制動でこけちゃったんです」えぇ?もしかして検定の人?「そう。僕の前の人です」なんてこったい。本当にこける人はいるんだ。よりによって検定で。でも少しだけ気が楽になった。少なくとも1人は不合格確定だからだ。試験官殿が、こけたと思しきCBを走らせている。不都合がないかのチェックらしい。自分は再び椅子に戻った。

 そしてようやく全員が終了。待合室で待つように指示され、テレビを見ながらぼうっとしていた。えーと、検定不合格は2時間の補習だから、とりあえず速攻で予約とって、また来週試験受けて。あぁ、それにしても最後の後方不確認は痛かったなぁ。いつもやってることなのに。徐行はともかく、発進・停止の安全確認を怠るなんて。本当に道路を走っている時だってめったなことでは忘れないのに。しつこいほどそんなことばかり考えていた。ずいぶん待たされた頃、「大型二輪検定受験のXXさん、X番受付まで…」の呼び出し。あぁ、さっきこけた人かなぁ。そう思ったが、振り返るのも気の毒だったのでそのままテレビを見ていた。さらに待つこと数十分。ようやく「…二輪控え室に集合してください」という放送がかかった。何なんだ、この時間のかかり方は? もしかして…?

 控え室に入ると試験官殿が笑顔で迎えてくれた。「えー、この場におられる方、全員合格です。一人、急制動で気の毒な方がおられましたが…」なるほど。「ではこれより卒業証明書を作成します…」ということで、小さな紙に住所、氏名を記入した。これより作成?そんなわけあるかい。いままで作ってたからこんなに時間かかったんだべ?まったく。そんなことを思いながらも、心の中は現金なもので、「もうここに通わなくてもいい」という喜びに満ち溢れていた。


 卒業証明書をもらったその足で行き付けのバイク屋に立ち寄った。ようやく終わったというと、「何回ダブった?」と聞かれた。失礼な。ストレートですよ。補習なし。そういうと、「珍しいねぇ。普通は少なくとも1回は食らうんだけど。指とか足とか細かくチェックされて…。教習所で走れる基本が出来てたということなんだろうねぇ」と感心された。そういえば、ニーグリップにしてもレバー四本がけにしても、一度も注意されたことはない。TZRはニーグリップ必須だし、自分は手が小さいから元々4本がけでないとレバーを握れないし。でも徐行には泣かされましたよ、というと、マスターも「あれじゃぁねぇ…」と、外に止めていたTZRに目をやりながら苦笑い。

 で、何もそんな話をするためだけに寄ったわけではない。バイクの見積もりをしてもらい、注文を入れた。YAMAHA YZF600R "Thundercat"。逆輸入車である。600ccで100馬力、最高速は時速250キロに達そうかという化物である。車両本体価格85万円、その他、諸費用込み込みで乗り出し価格は約100万円になる。「逆車ってのは梱包されたまま来るんですよ。で、その鉄枠とかダンボールとか処分するのが面倒なんです。産廃になっちゃうから」というわけで、納車整備代と登録手数料が合わせて7万円にもなってしまう。まぁいいや。中古探しても見つからないバイクだし。100万前後なら一括で払える額だ。この不景気な時代に無謀かもしれないが、「蟻とキリギリスならキリギリスを選ぶ!」というのが自分の生き方だ。まぁ、何とかなるさ。下手に借金するよりはずっとマシだ。

 それから数日後、横浜の免許試験場で免許書き換えを済ませた。免許種類の欄に、「大自二」が書き加えられた。ようやく終わったという実感が湧いてきたが、それは全くの間違いだ。これからが始まりなんだ。そう言えば、前回の道路交通法改正で、大型二輪も取得から1年間の「初心運転者期間」があって、3点オーバーで講習になる。しかも今回は、講習後にまたやってしまうと有無を言わさず再試験→取り消しが待っている。欠格期間がないとはいえ、取り消しはご勘弁といったところ。これまで原付・中型と確実に食らっているだけに、今回も食らう公算が大きい。

 そんな後ろ向きな話はさておいて、卒業証明書と一緒にもらった一冊の本がある。「車と友に」という、この自動車学校の創始者さんが書いたものらしい、まぁよくありそうな教則本だ。その中に自分の目を引く一語があった。

時間差・平行・等速
 事故を起こさない為の物理的な必要条件が、たったこれだけの言葉で表現されている。これまで様々な講習を受けたり本を読んだりして「安全運転するには」という類の文章を眺めてきた。特にバイク雑誌のそれは「いかに捕まらないようにするか」がメインで、とても読むに値しないものが多い。それはおいといて、ここまでシンプルにまとめられたものには初めてお目にかかった。道路を走っていると様々なシチュエーションがあるが、そのどれもがこの3つの組み合わせを満足するか否かを判断するだけで、安全か危険かを見極めることが出来る。5年半で15万キロも走っていながら、これは新しい発見だった。さらに、「この3原則を守っているだけでは円滑な運転はできない=追い越しが必要になる場合がある」としたうえで、「追い越しをかける=3原則を自ら崩すことになる」という、一種の背理法で危険性を指摘している。「極める」とは、こういうことを言うんだなぁ、と思った。余談だが、目次と見出しが「時間差・平行・平等」となっているのはご愛敬か。

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