ボクサーツインで始まる一日

土曜日の朝、日の出前に目が覚める。しばらくテレビの天気予報なんかを見ながら頭がハッキリしてくるのを待つ。頭がハッキリしたら手足を伸ばして深呼吸、そしておもむろに起き上がって着替える。

太陽が顔を出すのと同じくらいの時刻、パニアケースを持って外に出る。RSからロックとカバーを外し、それらを片付けたらケースを装着する。一応、中身を確認。右側に工具、左側に雨具と地図。次にタンクバッグを装着。一通りの準備が終わったら手足の軽い屈伸運動、そしておもむろにセンタースタンドを外す。少し車体を傾けるとズシリとくる重量感。シート横に腰を当ててバックさせ、方向転換して十数メートル離れた通りまで押して歩く。

再びセンタースタンドを掛けて各部の点検。まずはオイルレベル、続いてシリンダー回りを一通り眺めてブレーキパッドとタイヤの残量を確認。スタンドを外してRSに跨り、ライトスイッチを全てオフにしてからメインスイッチを入れる。燃料ポンプとABSセルフチェックの軽い機械音が響き、メーター下のバッテリ・オイル・ABSの赤い警告灯が点灯する。しばらくするとABS警告灯は点滅を始める。
チョークレバーを半分ほど引いてエンジン始動。ギャッシュッシュッシュ、ブルルルゥン...1100ccもあるとは思えないほど静かな音とともにボクサーツインは目覚める。オイル警告灯消灯を確認。アクセルを少し煽るとバッテリ警告灯も消灯する。ABS警告灯だけは上下交互に点滅し、エラー状態を示しているが、ここではABSが効かないということ以外は気にしない。
ライトを点灯し、チョークを引いたままアクセルを開けて走り始める。ポロロロロ...という気の抜けた排気音が、静かな朝の住宅地に溶け込んでゆく。

3キロほど離れた工場前にある食堂の駐車場に到着。このあたりでエンジンはようやく温まり、チョークを戻しても安定して回り続ける。一旦エンジンを止めて、自販機の缶コーヒーを1本飲みながら改めて各部のチェックを始める。エンジン回りの油漏れ、ホイールを回しながらブレーキの引き摺り、タイヤのトレッド面の異物、ベアリングの異音。
缶コーヒーを飲み干したら再びRSに跨り、エンジン再始動。今度はABS警告灯が上下同時点滅し、バッテリー電圧正常を示す。方向指示器を左に出して発進。車輪が回り始めると車体下部からクシューンという金属音が響き、ABS警告灯が消灯する。ABSセルフチェック正常終了、全警告灯消灯を確認。エンジン・ブレーキとも異常なし。
アクセルを開けてスピードを増すと、ポロロ...という情けない排気音は、ブーン...という連続音に変わっていく。レシプロエンジンの飛行機が離陸するような音といおうか、自動車のポルシェの音に近いともいおうか。元々、4サイクル2気筒の音がV型にしろ並列にしろ好きではなかった僕も、ボクサーツインの音は耳に心地よく感じる。何より低く静かな優しい響きがいい。

ボクサーツインで始まる一日。さて、今日はどこへ行こうか...

2003/5/12