虹を見た日

昨夜の雨のため自転車を仕事場に近い駅に置いて帰ってしまった僕は、今朝、いつもより早く目が醒めた。というよりも、階上の馬鹿が朝6時から重低音を響かせて目を醒まさせられたのだ。どうやら目覚まし代わりらしいのだが、数分経っても止む気配がない。まぁ僕だって時々ギターを掻き鳴らすことがあるし、馬鹿はお互い様。
そんなこんなでいつもの電車の時間よりかなり早く家を出た僕は、いつもの駅とは反対の方向に向かった。特に理由があるはずもない。なんとなくそうしたくなっただけだ。

1つ前の駅に向かっている間、ポツリポツリと雨が降っていた。やがて日が差してきたが、雨は逆に強くなってきて僕は傘を差した。薄雲の間から穏やかに降り注ぐ太陽光線に照らされ、折からの強風にあおられてキラキラ輝きながら舞い落ちる少し大きめの雨粒たち。彼らの織り成す無数の光の舞いを眺めながら、滅多に通らない道を滅多に乗らない駅まで歩いていく。
途中、通学中の子供たちとすれ違った。彼らは西の空を眺めてなにやら話していた。そこで僕も振り返ると、大きな虹が見えた。灰色の空にまぎれて今ひとつハッキリしないのだが、それでも大きなアーチは十分に識別可能なものだった。

今、この虹に気付いている人はどれくらいいるのだろう? 虹が出ていることに気が付きもしない人たちはどれくらいいるのだろう? 虹の見える西の空は、いつものこの時間帯ならまず見ることのない方角。今日にしたって全くの正反対。気付かせてくれた子供たちにちょっとだけ感謝した。
人は誰でも 虹が消えるにつれて
そのきれいな心 失いそうになる
佐野元春 「虹を追いかけて」より
そんな古い歌の1節を口ずさみながら、僕はちょっとだけいい気分で歩き続けた。

2003/03/07