瀬戸内にて

今日、本当は自転車のタイヤを替えるつもりだったのに、天気予報で「晴れ」だったからバイクで走ることにしてしまった。朝の4時過ぎに目が醒めて、そういえばメーター照明灯の豆電球が1個切れていたのを思い出して交換した。そのままいつもの装備品をリアシートの横にぶら下げて、おもむろに高速の入り口に向かって出発したのが6時前。まだ太陽も顔を覗かせていない時間だったが、あまり寒くなかった。

ひたすら西を目指した。養老SAでラーメンを一杯ひっかけて、給油を済ませたらノンストップモードに突入するいつものパターン。次に休憩したのは京都府内の桂川PA。トイレとチェーンのチェックだけを済ませてまたすぐに走り出した。山陽道が混みだす前に大阪から脱出したかった。

いつのまにか、岡山県内に到達していた。ここまで来たなら瀬戸大橋の袂まで行ってみようと思った矢先、燃料警告等が点灯した。まだ170マイルしか走っていない。ちょっと飛ばし気味だったのは確かだが、それにしても早い。計算外もいいとこだ。給油所のあるサービスエリアをいつ通過したのか覚えていない。この次までどのくらいの距離があるのかも全くわからない。そのまま十数マイル走る間に標識をチェックしながら考えた挙句、一旦下りてガソリンスタンドを探すことにした。下りたところですぐ見つかるとは限らないが、高速上のガス欠だけは、なんとしても避けなければならない。
山陽というインターチェンジを出たところにすぐガソリンスタンドを見つけた。おお、ラッキー!と思わず声に出た。給油するとなんと17.2リットルも入った。タンク容量が19リットルだから、残り1.8リットル。しかし次のサービスエリアまで十数キロ程度だから、この燃費でも余裕だったはずだが燃費計算と情報入手に失敗したからには仕方ない。

先ほどのインターチェンジから再び高速道路に上がった。山陽道本線から瀬戸大橋方面に折れ、その先のインターチェンジに「玉野」という地名を見つけた。そういえば水族館があったっけ。と思った途端に下りてしまっていた。
しばらくどこを走っているのかわからないうちに海岸沿いに出た。造船所なんかが見えたりする。確か、三井造船の拠点だったのを思い出した。そういえばガソリンスタンドも「ミツイ」のマークがある。いわゆる企業城下町、そういう街なんだろう。
曲がりくねった細い国道を進み、ようやく目的の水族館にたどり着いた。「玉野海洋博物館」と銘打ったそれは、入館料500円の小さな海の博物館だった。魚だけでなく、色々な標本と造船所にちなんだ船の精密な模型があり、中でも「魚の剥製」が充実していた。
生きている魚の方は、それほど目新しいものはなかった。確かナポレオンフィッシュがいたはずだが? と探すと、30センチほどの若魚と、その半分位の幼魚の2匹が別々の水槽で泳いでいた。水槽上部の説明版には巨大な緑色をした成魚の写真があったが、知らない人は絶対に同じ魚だと思わないだろう。瀬戸内在住でない人間にとって新鮮に映るのは「イカナゴ」。長さ数センチで蛇やミミズのような細長い体をしている。円形水槽の中で群れて泳いでいるのだが、底をよくみると、頭だけ出して砂に潜っている奴らがたくさんいる。これは「砂に潜る」という習性を知らなければ見逃してしまうポイントだ。

玉野を離れて岡山市内に向かった。国道2号線まで戻り、東へ向かっていると有料道路の案内標識があった。岡山県南部の海岸沿いを走る「ブルーライン」という有料道路。どうやら観光道路らしく、路肩の看板には「風光明媚」の4文字が踊っていた。
車のほとんどない片側1車線の道路は、確かに快適そのものだった。途中、数箇所のドライブインを兼ねた観光施設が点在していた。そしてクライマックスは海を横切る大きな橋だった。眼下に見える青い海と、水平線を隠して重なり合う緑の島々。これぞ瀬戸内の醍醐味といえる風景。

ブルーラインを出て、再び国道2号線に戻った。しばらく峠道が続き、その間、大型トレーラーの後ろについてノンビリ走っていた。
登坂車線でトレーラーを追い越したと思ったら、それが最後の上り坂だった。峠を下りたらすぐ平地になった。しばらく行ったところに駐車スペースのある自動販売機を見つけ、休憩をとった。暖かいブラックコーヒーを飲みながら、まだ早い春の陽気に照らされて黒光りしているバイクと道行く車の流れを眺めていた。先ほど追い越したトレーラーが通り過ぎていった。日帰りツーリングと思しき地元ナンバーのバイクが2台ほど通過した。
田舎の国道の道端に止まって、コーヒーを飲みながら通り過ぎる人たちを眺めているひと時。いいなぁ、と思う瞬間。高速道路を非日常的な飛ばしてゆくのもいいけど、こんなノンビリしたツーリングも嫌いじゃない。

国道2号線をひた走り、神戸の手前から有料道路を乗り継いで名神高速に戻った。吹田のサービスエリアに立ち寄って給油したら、180マイル走って12.2リットルしか入らなかった。行きは似たような距離で17.2リットルも入ったのに、えらい違いだ。このバイクは高速道路を使わない方が燃費が伸びる...って、俺が高速で飛ばしすぎなんだよね。最近、燃費が伸びなくて故障かな、と思ったこともあるけど、故障してたのは僕の頭の方だったということが見事に実証されてしまった。
それにしても、走行距離10万キロを越えてまだこんな燃費をたたき出すバイクには、本当に恐れ入る。

吹田SAを出てから次に休憩したのは岐阜県内、養老SAだった。ここで蕎麦を一杯かきこんで、トヨタについたのは17時30分頃だった。料金所で通行券の時間を見ると15時頃。家に帰って西宮からトヨタの距離を調べると225キロ。ほぼ2時間半だから、休憩時間を含めても時速90キロペースで走りきったことになる。
復路で名神高速に入るまでには高速で400キロ近く、一般道で200キロ以上も走っていたはず。確かに道が空いていたのは事実だが、あの距離の後にしてこのペースを保てるバイクに、いまさらながらに驚いてしまう。これでもう少し乗車姿勢が楽なら「BMW顔負け」と言えるのだが。
本日の走行距離はおよそ800キロ。もう少し暖かくなってきたら、一般道の割合を増やして高速代と燃費を稼ぐ走り方に切り換えよう。

そういえば、今日はあまり海を見た記憶がないなぁ...

2003/03/02