インプレッション

2011/10/29
R1200RT 田舎道の道端にて
田舎道の道端にて。クリックすると大きな画像を表示します。

とりあえずのインプレ

購入動機

三中里予にしては久々の、猫(YAMAHA Thundercat)以来の現行車種になります。とはいってもれっきとした中古車です。

直接の購入動機は6年間で15万キロを走破したR100RTが壊れたことです。修理費用と走行距離を勘案して乗り換えることを決めたとき、次の候補はR1100RTという10年以上前の機種でした。R100RTの直接の後継機種で、2004年の夏に事故で潰したR1100RSと同じエンジンを積んでいる重量級のツアラーです。1995年頃の発売当初からモデル末期の2000年頃まで比較的長期間に渡って販売された人気車種ですが、今となってはタマが無いのは判っていたので、いい出物が現れるまではバイクを離れてノンビリ待つつもりでした。

そんなことを話すためにショップに出かけたとき、コイツに出会いました。去年デビューしたばかりの、しかも走行距離1万キロ未満の新車に近い状態の極上中古車には正直驚きました。勧められたその場はちょっと考えさせてくれとは言ったものの、心の中は購入資金をどう捻出するかで一杯でした。一旦は断りを入れたものの、すぐに思い直して「お買い上げ」と相成ったわけでございます。

乗ってみた感想1:ライディングポジションについて

R1200RTはR1100RS以降の歴代BMW車と同じく、シート高の調整機構があります。納車当日はR100RTと比べて50kg以上も重い車体に慣れていないという理由で低い方(780mm)にセットして走り始めました。そこでまず「狭い」と思いました。

さっきまで乗っていたR100RTと比べてハンドル位置はやや遠目、高め。それに対して下半身はシートとステップの距離がやや短め。「正座してやや前かがみになって腕を前に伸ばす」という、とても不自然な乗車姿勢です。

ショップのある市内から少し離れた場所にあるインターチェンジから高速道路に入りましたが、ポジションの違和感にどうしても納得できず、2区間先で下りてしまいました。その後しばらく一般道を流していましたが、どうにも我慢できなくなってシート高を高め(800mm)の位置にセットしなおしました。ステップが高いので「若干マシ」といった程度ですが、それでもハンドルにぶら下がる違和感は解消されました。

以来、シート位置はずっと高めのままです。身長170cm以上の方は最初からオプションのハイシート(820-840mm、ドイツ本国標準)を購入された方がいいでしょう。

乗ってみた感想2:エンジンについて

このR1200RTは以前のボクサーエンジンと違い、ツインカム(DOHC)のシリンダーヘッドが採用されています。それは知識として知っていましたが、エンジンの回る感覚は自分が知っている2台のボクサーとは全く違うものでした。

DOHCボクサーの回り方は、どちらかといえば国産の4気筒エンジンに近いような気がします。エンジンが冷え切っている朝一番の始動でもセル一発で目覚め、アイドリングからビュルビュルと元気な音を立てます。街乗りの常用域(2500-3000rpm)から高速(3500-4000rpm)までは常にガルルルと唸っている感じを受けます。

一般道の平地を制限速度付近で流している時でも結構うるさく感じます。もっともこれはR1100RSの初期型ハイカム4バルブやR100RTの古典的OHVエンジンと比べての話で、世間一般によく見かける大排気量リッターバイクと比べると充分に静かな部類に入ると思います。

アクセルレスポンスはさすがに俊敏で、2500rpm以上回っていれば、欲しいだけのトルクが即座に湧き出てきます。一方でラフなアクセルワークではシャフトドライブのガタが気になります。これも非力なR100RTと比べてのことですが、なかなか慣れません。

特筆するべきは燃費の良さです。車通りの少ない田舎の国道を制限速度付近で流す分にはリッター当たり21~23km走ります。高速道路を制限速度キープすると23~25kmまで伸びます。平均燃費は液晶パネルに表示されるのですが、実際の給油量と走行距離から計算した数値と大体合っています。

燃料タンク容量は25リットルで、残り4リットルを切ると警告灯が点灯します。その時の走行距離はだいたい450前後です。液晶パネルの表示モードを手元のボタンで変更すると、現在の走行ペースと燃料残量から計算した残走行可能距離が表示されます。警告灯が点灯すると残りは大体80キロ前後ですので、我慢すれば500km以上は走れる計算になります。この燃費の良さを実感すると、もう飛ばして走る気にならなくなります。

乗ってみた感想3:車体・ブレーキについて

R1100RS以降のボクサーツイン搭載バイクはテレレバー・パラレバーという特徴的な前後サスペンションとABSを装備しています。ブレーキは右手のレバーを握るとフロントとリアの両方が効き、右足のペダルを踏むと後だけが効くという半前後連動式です。何年か前のモデルにはブレーキに電動アシスト機構が付いていましたが、今のモデルにはありません。

ABSの威力は相変わらずです。テストのためにかなり激しいブレーキングをしても、総重量280kgの車体を苦も無く減速・停止させます。テレレバーという変わった形のフロントサスペンションのおかげで前のめりにならず、急減速をしているというよりも「その場で止まってしまう」という奇妙な感覚があります。あまり頼りすぎると痛い目に遭うのは経験済みなので、あくまでも非常時の保険です。

車体全体に関して言えば、エンジンの搭載位置がR1100シリーズと比べてずいぶん上になっています。かつては「水平対向だから重心が低く、安定する」などと言われましたが、今となっては「他のバイクに比べて若干」という但し書きを付けた方が適切なように思います。エンジンが上に移動したことでバンク角が非常に深くなっています。通常のツーリング用途でタイヤの端から端まで使い切ることはまず無いでしょう。

バンク角だけではなく、運動性能もツアラーにあるまじき俊敏さです。見た目や車重から想像もつかないほど軽快に、よく曲がります。購入前は茨城県北部の狭い県道にはもう行けないかもしれないなどと思いましたが、気が付けばR100RTとあまり変わらない道を普通に走り抜けています。唯一の違いは、未舗装の林道へはさすがに入り込めないことぐらいです。

前の型のR1200RTが2005年にデビューしたとき、R1200STというややスポーツ寄りの車種も同時に発売されました。それはR100RSに始まる"RS"の後継機種と目されていたのですが、販売が振るわず数年のうちに生産中止になってしまいました。今、R1200RTに乗って何となくわかります。この運動性能なら"RS"は要らない、コイツで充分だと。

乗ってみた感想4:オートクルーズ

このバイクにはオートクルーズというバイクにはあるまじきオプションが装備されています。まさに禁断の、悪魔のオプションでした。

左手側のスイッチボックスの上に小さく出っ張った灰色のスイッチがあります。これがオートクルーズです。走行中にペースを保ちたい速度でスイッチを入れると、あとは上り坂だろうが下り坂だろうが、設定した速度を電子制御で保ち続けます。よくある「スロットルをネジで締めるだけ」というオモチャの比ではありません。

速度を一定に保つだけが能ではなく、スイッチの操作により左手だけでの加減速ができます。つまり右手が完全にフリーになります。これを味わうと高速ツーリングの概念が変わります。車通りが少なかったりペースがある程度一定の流れにうまく乗れてしまうと、乗っている他にするべきことがなくなってしまいます。オーディオやラジオが付けられる理由がなんとなく分かりました。

コツさえ掴めばまるっきり手放しでの操縦も可能ですが、手放しをするよりはどちらかの手をハンドルに添えたほうがはるかに楽です。安全面からもお勧めはできません。

総括するには早いけれど

先にも書きましたが、燃費の良さには正直なところ舌を巻きました。R100RTも決して悪くはないと思っていたのですが、高速道路の巡航速度が1割増しで燃費が2割向上という事実には本当に痺れました。1987年登場のR100RT後期型から24年、1993年登場のR1100RS初期型から18年。それだけの時間をかけて空冷水平対向2気筒エンジンをここまで進化させた独逸人の頑固さと努力には本当に頭が下がります。

数年先にはボクサーツインもついに水冷化されるという噂が流れています。自分も「空冷のRT」はこの型が最後になるのではないかと思いますし、"RS"に続いて"RT"の名が消えても何の不思議もありません。不安定な社会その他の情勢の中、どれだけコイツと付き合えるかはわかりませんが、せめてその車両価格の半分ぐらいは味わいつくしてみたいものだと思います。



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