ブルーな日曜日の夜 (Sunday evening blue)
2000/01/31
川崎〜横浜〜(首都高速・保土ヶ谷バイパス・東名高速)〜御殿場
〜箱根〜小田原〜平塚〜茅ヶ崎〜横浜〜川崎
出発時刻:    17:00過ぎ
帰着時刻:    21:30頃


 金曜日、会社の飲み会があった。2週連続で朝まで飲んでいた。それなのに翌日は友人の家に泊まり込んで飲んでいた。明けて日曜日、午前中は二人して「頭痛ぇ」などとのたまいながら時間をつぶし、午後から大学時代のサークルの先輩に会うために池袋駅まで行ってきた。そしてアパートに戻ったのは午後4時頃。


 ここ数日、不治の病で苦しんでいる。「死ななきゃ治らないっていうアレ?」近いものがあるかもしれない。とにかくちょっとブルー。考えるだけでヤバい。血圧・脈拍数上昇。免疫不全ともいうし、罹る年齢が遅すぎるというのもある。精神病の一種かも。

 考えても仕方がない。治らないのは明らかだし、それでも明日からまた仕事が始まってしまう。でもこのままじゃ何も手につかない。

 そうなった時、解決法の選択肢は知れている。走るしかない。とにかく滅茶苦茶に走るしかない。高速道路をどこまでも西へ向かい、明日は大坂あたりから「すんません、今日と明日は休みます」と会社に電話を入れてみるのもいいかも。5年前ならそうしていたに違いない。でも今は出来ない。俺も年を取ったんだな、と声に出して自嘲的につぶやく。
 おもむろにバイクを引きずり出した。とりあえず、何も考えないで、というか考えない振りをしながら第一京浜に出た。ゆっくり走りながらエンジンを温める。鶴見から大黒埠頭入口へ、大黒埠頭入口から首都高速の入口へ。首都高速に上がり、横横道路へ進路を取ったが、急に気が変わって保土ヶ谷バイパスを走り出した。東名高速横浜・町田IC。何やってんだろうな。どこへ行きたいんだろうな。自分でも分からない。



 海老名のサービスエリアで給油した。160マイルで12.6リットル。だいたいリッター20キロ。まあまあじゃん。最近、通勤に使ったりで街乗りばっかり。渋滞にもはまったというのに。上出来。
 厚木から小田厚に入ろうと思っていたが、追い越し車線でそのまま素通りしてしまった。大井松田で下りて国府津で西湘バイパスかな、と思ったが、いつの間にやらペースアップして右ルートで御殿場を目指していた。時計を忘れてきたので時間が分からなかったが、西行きの車は少なく、どんどんペースが上がってゆく。100、110、120...それでも意外と冷静な自分を自分で観察しているのがわかる。アドレナリンの分泌がちょっと足りない。だから寒さを感じてしまう。高速コーナーで半身を乗り出すと、標高数百メートルの冬の夜風が膝頭を叩く。寒い、というよりも痛い。Gパン一枚の下半身には辛すぎる。慌ててカウルに足をもぐりこませる。直線ではヘルメットもスクリーン下にねじ込んで、風の音に酔いしれる。

 御殿場のサービスエリアに立ち寄った。トイレを済ませて出てくると、黒い雄猫がいた。僕のホームページの表紙を飾る「クロ」にそっくり。まさか、アパートの住人が五月蝿がってこんなところに捨てたのか?と思ったほど似ていた。しゃがんで声をかけると擦り寄ってくるしぐさまでそっくり。でも鳴き声が違った。擦り寄ってきたあとの仕草も違う。こいつはこいつ。クロはクロ。ちょっと淋しかった。オマエがクロだったら、今この場でバッグに押し込んで連れて帰ってしまうのに。  でも黒い猫って、綺麗だよね。思わず見とれちゃう。なんで「不幸の前兆」なんだろう?魅入られて集中力が欠けるから?
 御殿場のインターチェンジで高速から下りた。そのまま国道に出て箱根に向かう。車の後について、ゆっくりと上って行く途中、あちこちで路面が濡れている。変だな、今日は雨降らなかったはずなんだが...と思って路肩を見ると、白い。もしや...と思ったら案の定雪だった。雪が解けて道路を濡らしていたのだ。まさか、凍結はしてないだろうな?と不安になる。



 トンネルを抜け、曲がりくねった道の途中でジュースの自動販売機を見つけた。「無糖」と書かれたコーヒー缶を一本空ける間、しばらく休憩する。静かな山の中。バイクのアイドリング音と、時々通り過ぎる車の音が張り詰めた空気をかすかに震わせる。ふと、一人でいることが淋しくなる。誰かにいて欲しい感覚。ここ何年も感じなかった、忘れ去ったはずの感覚。その感覚を否定するために、残りを無理矢理喉に流し込んで早々に走り出した。  しばらく下ると「仙石原」の標識が目に入る。久しぶりに現われた信号機で止まる。右へ折れると芦ノ湖。夏だったら何のためらいもなく右へ折れるに違いないのだが、今日は雪を見てしまったので、そのまま湯元方面に向かった。
 いつもなら「この辺で死ぬかな?それもまたよし」と馬鹿なことを考えたりするのだが、今日は「怖い。死にたくない。無事に帰りたい」と念じていた。国道1号線と合流し、小田原市内が見える頃になってほっとした瞬間、そのことに気がついた。それで余計にブルーになる。生きて帰ったところで、誰が僕を待ってるというの?誰も待ってはいない。

 ごちゃごちゃに乱れている頭とは別に、手足は正確にバイクを操り、目は鋭く危険を察知する。その矛盾に戸惑いを感じながら、それでも止るわけにはいかない。

 「横浜 XXkm」という標識が目に入った。それで一気に現実に引き戻された。



 小田原市内から西湘バイパスに入ろうとしたのだが、何だか混雑しているような電光掲示が出ていたので、そのまま1号線を走り続けた。ノロノロとしたペース。でも不思議と今日は苛つかない。2日連続で泊りがけの飲み会だったから?それとも何か別?答えは知っているが、それを口に出すわけにはいかない。
 茅ヶ崎市内から新湘南バイパスに入った。その途端、狂ったようにアクセルを開ける。7、8、9、10...足りない。こんなものじゃ僕の心は満足しない。でも開ける勇気が出てこない。そこでようやく苛立ちを感じ始める。
 藤沢バイパスも、車は少ないものの、遅い車が前をふさぐ。前に出たい!矢のように突き進みたい!前車の直後にピタリと付け、シフトダウン。エンジン音が上がる。それを嫌がって道を譲ってくれるのを待ち、わずかな隙間を縫って、バネ仕掛けの何かの機械のように右手首をひねる。
 NAPS横浜店の近く、対向車線に「事故」の2文字が見えた。スクーターと車の接触事故のようだった。さらに原宿の交差点を少し過ぎたところでも、これまた対向車線で何やら事故の様子だった。追突事故のようで、しかも追突した方だかされたほうが反対車線、つまりこっち側に飛び出して、1台巻き添えを食らっていた。それで気分が萎えてしまった。普通なら横浜新道から首都高速で一気に帰るところを、戸塚から一般道に下りてしまった。


 新道を出ると、1号線は1車線になる。時々車の列をすり抜けながら、それでも僕にしては異常なスローペースで走っていた。鎌倉への分かれ道の手前で2車線になるが、あんまり飛ばす気にはなれなかった。疲れているわけではない。さっき事故を2つも続けてみたから?そうかもしれない。高島町の急カーブのトンネルを抜け、第一京浜に戻った。鶴見でちょっと本屋に立ち寄り、何か面白そうな本はないかいな?と物色するだけして、やっとアパートに戻ったのは午後9時をまわっていた。

 さて、走ってきて何かが解決したんだろうか?否。何も変わっちゃいない。しばらくはこのままの状態が続くんじゃないかな。それとも何か荒療治をしてみるかね?



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