BMW購入顛末記(2)

魔物に出会ってしまった。
魔物に魅入られてしまった。

【RとKの狭間で揺れる】

その日から、頭の中は寝ても醒めてもBMWという日常が始まった。下ネタ以外のWeb検索も久々に活用しだした。そして今、ベクトルが少しだけ変わりかけている。
その日、店から帰る途中では新型ボクサーのRSモデルでほとんど決まり、あとは確認のための試乗だけという気分だった。ところが帰宅直前に買った「BMW BIKES」という雑誌のKシリーズ特集号を隅から隅まで読み進むにつれて、ボクサー寄りだった思考が再びKに傾き始めた。それはK1200RSの前身モデル、K1100RSの存在だった。

K1100RSは、1993年から1996年までの期間に発売されたスポーツツアラーである。前モデルK100シリーズの1000cc4気筒エンジンが1100ccまでスケールアップされている。同じエンジンを積んだ豪華ツアラーのLTモデルも存在する。
車体回りに目を向けると、リアサス・スイングアームは現在とほぼ同じ「パラレバー」を採用しているものの、フロントには現行のR・Kシリーズ全てが採用している「テレレバー」ではなく、ありふれたテレスコピックタイプのフォークを備えている。ホイールも、フロントこそ現在主流の17インチであるものの、リアには1サイズ大きな18インチ。しかもラジアルタイヤではないらしい。ABSもまだ標準装備でなく、オプション扱いになっている。
エンジンは先に書いた通り1100ccの直列縦置き4気筒で、吸気系はインジェクション(電子制御式燃料噴射装置)、排気系にはキャタライザー(触媒装置)を備える。最高出力は「ドイツ自主規制値」の100psを7500rpmで、最大トルクは10.9kg−mを5500rpmでそれぞれ発生する。数値だけ見れば、馬力こそ我がYZF君と同等だがトルクは実に1.6倍もある。しかも発生回転数はYZFと比較して出力で65%、トルクはたった58%の回転数にすぎない。最高速度は220km/h程度。瞬間的な数値だけで比較すれば、おそらく排気量が半分程度しかない我がYZF君の方が少しばかり速いらしい。
外装の特徴としては、フロントカウル直付けのバックミラーが印象的である。箱のようなエンジンを囲む、これまた箱のようなフルカウルに、やはり箱のようなミラーがハンドルバーに近い高さに付いている。前から見ると、車種はともかく一目でBMWであることが見て取れる。コクピットには「まるで四輪車のよう」と批評されたという、やはり箱のような2連の大型メーターが並ぶ。最新のK1200RSのようなハンドルポジションの調整機構はなさそうだ。しかしパッと見にはかなり高い位置にハンドルがあり、楽そうには見える。あとはタンクの長さが実際どれくらいなものか。
K1200RSを躊躇する最大の理由は、そのスポーツバイクにあるまじき290kgに達する装備重量である。このK1100RSはどうか? と思って色々調べたところ、270kg弱であるらしいことが判明した。なんと現行モデルよりも20kg以上軽いのである。これは僕が以前、日本車の中ではコレだよなぁ、コレより重いのは勘弁だよなぁと思っていたヤマハのXJ900Sという空冷4気筒・シャフトドライブのツアラーより若干軽い。急速に乗り換え候補として浮上してきたR系のRSモデルと比較しても10kg程度重いだけなのだ。

BMWの真価は、最高速度とほぼ等しい巡航速度にあるといわれる。K1100RSでは時速200キロ付近で「巡航」、つまり「普通に走る」ことができることになる。名古屋から東名高速経由で東京まで1時間半で行けるのかという問いに対する答えが「ノー」ではないということだ。
本当に1時間半で行ってしまうのは法律で固く禁止されている。そこで見方を変えて、その道のりを無休憩で行くことを想像して欲しい。我がYZF君も、名古屋を出て用賀の首都高速入口に到達するまでノンストップ・3時間ジャストで行くことは決して難しいことではない。しかし毎回というわけにはいかないし、一週間続けてとなると絶対無理だと確信を持って言える。その理由は同一速度におけるエンジン回転数の差にある。
YZF君の標準的な高速巡航速度はトップ6速で120km/h。エンジン回転数にして約6000rpmになる。最高出力発生回転数の約半分だが、それでも甲高いエンジン音のせいで意外と疲れるものだ。K1100RSのギア比とタイヤ径から計算すると、トップ5速で4500rpm程度。YZF君で6速・4500rpmは約90km/hに相当する。つまり感覚的には90km/hなのに実は120km/hで走っているという理屈である。100km/hなら3800rpmで十分。YZF君では約75km/hに相当し、こうなれば一般道を普通に走る感覚にまで下がってしまう。そこで3800rpmという回転数が最大トルク発生回転数の何%あたりかを見ると、YZF君では40%だがK1100RSでは69%にもなる。つまりこの中・低速域での圧倒的な「余力」こそが、今の僕が一番必要とする性能なのだ。
国産車でこれに近いエンジン特性を持つ大型ツアラーとなれば、もうFJRぐらいしか思い当たらない。しかし残念なことに、僕の体格では足付き性に思い切り難点があることが既に判明している。数こそあれどあまりに選択肢がない国産車ラインナップに、僕はついに見切りをつけてしまったのだ。

そのK1100RS。さすがにもう中古でしか手に入れることは出来ないが、気になるお値段はいくら位なのだろう? あの日訪ねたバイク屋さんのWebサイトがあることに気が付き、アクセスしてみたら何と在庫情報があった。2台、いずれも90万円弱。我がYZF君の新車価格より若干高い程度。中古なので諸費用がさらに若干安くなり、乗り出し参考価格を計算すると車検付きで100万円少々だった。これなら十分に手が届く。
写真を見て思い出した。そういえばあの日、店内にあったじゃないか、コレ。気持ちがボクサーのRTかRSにだいぶ傾いていたので気にも留めなかったのだが、メタリックブルーの美しいバイクだった。そうか、あれがK1100RSだったのか。てっきりK100シリーズのクラシック車だと思ってた。
Web検索してみると、初めてYZF君を買った時のように、国内では情報の少ないバイクらしい。現行のK1200RSと、前々モデルのK100RSとの繋ぎ役イメージが強すぎるのか、一言でいえば「マイナー」なバイクである。いいねぇ、「マイナー」という語感。
バイク免許を取って初めて買ったRZ350から始まって、TZR250後方排気、YZF君×2台と不人気車街道を驀進してきた僕の、悪い癖がまたまた顔を出し始めた。テレレバーじゃない? ラジアルタイヤじゃない? ABSも無し? おまけに不人気車? いいじゃんいいじゃん。 
動力性能は文句なさそうだし、装備重量も我慢できるレベル。正規ディーラーの認定中古車ならば車両自体にも不安は少ない。そして何より...憧れのKエンジンに100万ぽっちで手が届くのだ。残る懸案事項はライディングポジション。試乗走行は無理としても、これだけは実車で確認しなければならない。今週末は天気次第ではあるけれど、またあの店に行ってみようと心に決めた。

魔物はまだ消えない。しかし数が減って少しばかり弱くなった。
そんな気がした。

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