BMW購入顛末記(4)

魔物に出会ってしまった。
魔物に魅入られてしまった。

【挫折、そして方針転換360°】

その日は曇り空で、天気予報では夕方から雨になるらしかった。それでも僕は出かけた。一刻も早く魔物に会いたかったから。トヨタ国を出て北へ数キロ、三好付近で雨がぱらついてきた。東名高速に上がり、インター1つ先で下りたら目的地はもう目の前。遠いようで意外と近い場所なのだ。

店員さんと少し話をした後、さっそくK1100RSに跨らせてもらう。すると意外や意外。絵でみるよりも足つき性が悪い。いや、足つき性だけではなかった。膝でタンクをホールドする、いわゆるニーグリップができない。タンクに対して両の太ももが完全に「ハ」の字に開き、膝頭が数センチ浮いてしまう。つまりタンク後部とシートの幅が僕の骨盤に対して広すぎるのだ。着座位置をどうずらしても解消しない。
取り回しはハンドル位置が高いこともあって意外と悪くない。いやむしろ想定範囲内に納まっている。センタースタンド上げ下ろしも全く問題なし。着座位置からハンドルの距離・高さも思った通りで申し分なし。だがタンクとシートの形状だけはいかんともしがたい。前モデルのK100RSには「ローシート」というオプションパーツがあったのでもしかすると、ということで調べてもらったが、残念ながら該当なし。本気でポジションを合わせるならタンクとシートを特注するしかないという。
久しぶりに自分の体格を呪った。目の前にある、10年落ちとは思えない美しさを放つメタリックブルーの魔物は、僕の心を鷲掴みにして深い爪痕を残し、そして目の前で小さな僕をあざ笑っているかのようだった。
こうして魔物の一匹はあっけなく僕の中から去っていった。残るは二匹、R1100RSとK1200RSだったが、これまたどちらも甲乙つけがたい。ポジションは両車とも非常に似通っているものの、エンジン形式は「空油冷水平対向2気筒」と「水冷縦置き直列4気筒」で全く異なっている。車重は後者の方が30kg以上も重いが、重くても取り回しに難を感じないのはさすがにBMW。つまりK1200RSを諦める決定的要因になっていない。
その場では、とりあえず数日後に試乗してから決定することにした。

店を出たら雨が本降りになっていた。雨具を持ってはいたが、高速道路入り口まで約2km、そこから十数分で着く距離なのでそのまま帰ることにした。帰り際、購入後わずか1年で2万5千キロを指している我がもう一台のYZF君の距離計を見た店長は、「あなたは新車よりも慣らしの終わった中古を乗り継いだ方がいいかもねぇ...」と言った。その一言で僕は呪縛から解き放された気がした。
そうだ。いくらBMWだからといって「一生モノ」という気構えなど必要ないじゃないか。今は手が届かないK1200RSだって、あと数年すれば100万切るまで値が下がるはず。その昔お世話になっていたYSP店の社長さんは「アンタは新車でないとダメだよ」と言っていたが、それは走行数万キロで本当に駄目になってしまう国産車の中古では僕の走り方をとても支えきれないからだ。
店から通りに出た瞬間、僕の気持ちはもう固まっていた。認定外中古車で78万円の初期型R1100RS。ポジション、足つきは文句なし。年式の古さや走行距離1万5千マイル、外装の少々の傷などは気にならない。どうせ乗り潰すのだから。それに「初めてのBMW」は、やはり「BMWらしい」ボクサーエンジンにしておくのが筋ってモンじゃないか。両サイドのパニアケースを付けても乗り出し価格は100万円そこそこにしかならない。あとは支払方法と、次回の試乗で転ばずに乗れるかどうか。雨の中を時速100マイル以上で駆け抜けながら、頭の中はもうそんなことで一杯だった。

そしてこの瞬間、4年間で11万キロを走り抜き、わずか二ヶ月前に車検を通したばかりの我がYZF君の運命は決したのだった。

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