2003年大型連休の思い出

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二日目・5月1日(木)

二日目の行程

九州道 南へ

午前4時台に目が覚めた。あたりはまだ暗い。テントの中で手足を動かしながら、昨日の疲れを確認する。どこも痛くないし、どこもだるくない。さすがBMW。
夜露に濡れたテントを濡れたまま畳み、パニアケースに押し込んだ。スタンドを掛けたままでエンジンを始動し、少し暖気する。取説には「エンジン始動後、直ちに発進せよ」という旨の注意書きがある。つまり「アイドリングするな」と云っているのだが、さすがにエンジン始動直後に高速道路の本線に飛び込むのも気が引ける。要は長時間のアイドリングを避ければよいだけの話で、実際にアイドリング状態で放置してカウルが溶けたりエンジンが焼き付いたりといった事例があるそうだ。シリンダーヘッドが少しだけ暖まったところで発進。
15分程走った先のSAで給油し、まだ薄暗い中、熊本ICを通過。日が昇るまでどこまで行けるだろうか。特に急ぐでもなく、ノンビリと熊本市を通過すると、いつの間にか山道になった。「トンネル○○本連続」の先はかなり厳しい(楽しい)ワインディングロードだった。トンネルの先にまたトンネル。そのまた先にトンネル。わずか数十キロの区間に十数本のトンネルがあるのだ。正確な数は忘れてしまったが、これほどまでにトンネルが連続する高速道路は始めての経験だった。
やがて本線が1車線になり、上り勾配が急にきつくなる。久し振りに先行車に追いついたと思ったら、大型のトレーラーだった。60km/hそこそこで峠を上り、同じような速度で下ってゆく。
加久藤トンネルという長いトンネルを越えた先のPAで休憩。日はまだ昇っていないが外は明るい。缶コーヒーを1本空ける間に駐車場の端まで歩いてゆくと、見事な雲海だった。写真でも撮るべぇ、と思ってバイクのところまで戻ってカメラを取り出し、スクリーン越しに雲海を写した。
えびのを過ぎるとアップダウンはあるもののほぼ直線の道が続く。日の出直前の道を、時々大型車を追い越しながら快調なペースで進んでいく。およそ30分で「溝辺・鹿児島空港」というICから一般道に下りた。長かった高速道路の旅はここでひとまず終わりを告げた。
雲海
スクリーン越しに流れてゆく雲海。実はミラーに自分が写ってます

桜島を見よう

インターチェンジを出てすぐにバイクを止めて地図を取り出した。国道504号線から223号線経由で鹿児島湾に出られるはず。途中のコンビニでおにぎりとお茶を買って朝食を取っていると、散歩途中のおじさんに話し掛けられた。息子さんが岡崎にいるので「三河ナンバー」がちょっと気になった、とのこと。
国道10号線に当たる交差点を左折し、大隈半島側へ進路をとった。ここから国分市で220号線のシーサイドルートに入ってようやく海が見えた。遥か先に見える大きな、しかし割と平坦な山。あれが桜島なんだろうか。もっと近くへと心ははやる。この日は噴煙が上がっておらず、遠くからもよく見えた。次第に大きくなる桜島。その「桜島口」の交差点で国道220号線から一旦224号線に逸れて、いい写真が撮れそうな景色を探したが、あいにく近すぎて、海岸の溶岩くらいしか見るべきものがない。今日の目的はあくまでも佐多岬にあったのでこれ以上の深入りを避け、元来た220号線に戻って再び南下をはじめた。
溶岩道路
R224、別名「溶岩道路」

佐多岬へ

桜島を過ぎると後は単調な幹線道路。それでもRSは僕を焦らすことなく、ただただ距離を重ねてゆく。右手に鹿児島湾を眺めながら、時折「佐多岬」の道路標識を探しながら。そしてついに佐多岬の有料道路にたどり着いた。連休中だというのにずいぶん閑散としている。それでも有料には変わりなく、料金を払った後で通行券を渡され、「これを途中で渡して下さい」と注意を受けて、舗装に荒れが目立つ佐多岬ロードパークへと足を踏み入れた。
もう何年前になるだろうか、大学のサイクリング部の合宿で来たことがある。しかし景色はとうに忘れてしまっていて、目に映る全てが新鮮に見える。右に左に曲がりくねった、荒れた路面を楽しんでいると、ふと道が平坦になった。その先に、左右の車線の真中に小屋のようなものが建っている。これが先ほど言われた途中のゲートだった。さて通行券を...ない。先ほどコーナーを攻めている最中に落としてしまったらしい。小屋に一人だけいたお兄ちゃんにその旨を伝えると、お兄ちゃんは入り口にあった管理棟に電話で確認を取ってくれ、そのまま通してくれた。内心、また金を払わなければならんのか、と思っていたのでほっとした。
そしてついにやってきました佐多岬。空は快晴、暑いくらいだ。さすが南国鹿児島。駐車場の端にバイクを置くと、シートがすぐに熱くなる。そこで濡れたまま畳んだテントをパニアから引っ張り出して、RSの上に広げた。超高級物干し台と化したRSを後に、しばらく突端まで歩くことにした。
荒崎PA 超高級物干し台
荒崎PAにて 独逸國製超高級物干し台?

とんだ昼下がり

佐多岬の展望台を歩いて往復して、再び車上の人となった。この旅の目的の半分を達成した。さて、これからどこへ行こう? まずは佐多岬から脱出することだ。
さっそく道に迷った。晴れているのに方向感覚がない。海辺に出たのだが、果たして進んでいるのか戻っているのか判別できない。裏道に入って1台の大型バイクと追いかけっこになってABSのお世話になったりするうちに更に迷い、ついに現在地が地図上のどこかがわからなくなってしまった。地図、といっても全国版の道路地図で、主要道路しか載っていない代物だ。そんなこんなで無駄にガソリンを消費し、気が付いたら燃料警告灯が点灯していた。ガソリンスタンドがありそうな町まで20km以上もある。だがリザーブが4リッターだから、最悪でも鹿屋市まで戻れるはずだ。
それにしても、行けども行けどもガソリンスタンドがない。しかも道はアップダウンが結構激しく、きついコーナーも連続する。途中、大きな風力発電施設が見えたが、ガソリン残量が気になってそれどころではなくて写真をとり損ねた。今思えば非常に勿体無かった。やっとのことでガソリンを補給し、今度は宮崎方面に向かう山越えの国道を進む。この道は車が少ない上に景色が最高、路面も良し。この峠道を走っている最中にボクサーエンジンの癖を利用する走り方に気が付いて、思わず走りに熱中していた。

やがて太平洋岸に出て、いくつかの小さな町を通り過ぎて都井岬方面を目指しているうちに悲劇はやってきた。信号待ちから発進すると、前輪付近から「キーキー」と摩擦音が聞こえる。さっきまで山道を攻めていて、ブレーキをハードに使ったのでちょっとタレたようだった。しかし速度が上がっても音は消えない。心なしか、加速も悪い気がする。なにより精神衛生上良くない。路肩の広い、かつ日陰になっている場所を見つけてチェックすることにした。スタンドを掛け、前輪を少し浮かせて手で回し...回らない。かなり力を入れると「ギギギ...」という感じでやっと動く。それほどブレーキが引き摺っている。ディスクを触ってみると左側が異常に熱くなっていたが、幸いなことに、「焼き」が入るほどでもなかった。
取設にしたがってキャリパーを外そうとすると、ディスクに干渉して外れない。仕方なくディスクも外す。パッドを外そうとするが、パッドピンが錆び付いていてなかなか抜けない。やっと抜けるとパッドの裏もボロボロに錆び付いていた。さすが、10年で2万4千キロしか走ってないだけある。多分、1度もパッド交換をしたことがなかったのだろう。
ピストンの戻りは問題ない。パッドピンかパッドか。確かにパッドは相当減っていた。出掛けにはまだ十分だと思ったが、佐多岬からここまで酷使したので一気に減ってしまったのだろう。普通なら寿命だ。この薄くなったパッドが熱を発散しきれないことが原因だな、と思ったところでどうしようもない。パッド裏やパッドピンにグリスを塗ってごまかしながら、とりあえず高速道路に戻ることにした。
ブレーキをバラしている間、ヒマそうなお兄ちゃんがやってきて「大丈夫ですか?」と声を掛けてきた。鬱陶しいが、今は追い払うよりもブレーキを何とかするのが先だ。適当にあしらいながら作業を続けたが、お兄ちゃんはBMWがよっぽど珍しかったようで、作業が終わるまでずっと眺めたり僕に話し掛けたりしていた。自分はNinja(カワサキ GPZ900R)に乗っているという。俺ってNinja嫌いなんだよね...とはいえず、「あぁ、いいバイクですよねぇ」と外交辞令。「あと70キロほど先にレッドバロンがありますけど...」と教えてくれたお礼に、ちょっとだけ跨らせてあげたら喜んでくれていた。それにしても、70キロかぁ...時間的に微妙な上に、連休中で休みの可能性すらある。バイク屋に持ち込み修理の線はサッパリ消して、なるべくブレーキを使わない走り方で夜を待つことにした。

再び九州道へ

途中2回ほどブレーキをバラして確認しながら数十キロを走り続けた。その間、ディスクを外さなくてもキャリパーを外す方法を習得したのはまさに「怪我の功名」だった。夕方になって宮崎市内にたどり着いた。ブレーキのトラブルのおかげで、観光もへったくれもない、ただひたすらイライラしながら走っていただけだ。都井岬に寄りたかった。幸島にも行きたかった。でも仕方ない。また来年に楽しみが伸びただけの話だ。夏は暑いからヤだなぁ。
宮崎自動車道の入り口を見つけて早速飛び込んだ。インターチェンジのゲートをくぐるとすぐパーキングエリアがあった。駐車場とトイレしかない一番貧弱なヤツだ。ここなら邪魔も入らないし、明かりもある。そこで落ち着いて対策を考え直すことにしたが、パッドの左右・前後を入れ替えてどうやってみても状況は好転しない。結論はもう「極力、前ブレーキを使わない」ことしかなかった。まぁいい、明日になって広島まで戻ればBMW屋が開いているかもしれない。うまくいけばパッド交換。駄目でも高速だけ使って帰れば済むだけの話。
数十分後、ようやく腹を決めてPAからガラガラの本線に飛び込んだ。なるべく前ブレーキを使わず、途中で現れるPA/SAで必ず引き摺りとパッド残量を確認した。昼間よりは状況がいくらかよくなっている。気温が低いせいもあるのだろう。とにかく、距離を稼ぐしかない。南国九州とはいえ、5月初旬の山中はさすがに冷える。ブレーキ点検のついでに服を重ね着し、グローブも夏用からスリーシーズン用の暖かいものに変えた。
宮崎道から再び九州道に合流し、今朝通った道を逆方向に向かう。加久藤トンネルや十数本のトンネル区間を抜け、ひたすら北を目指した。ここでBMWの強みが出てくる。昨日・今日とあれだけ走っていながら疲労感がほとんど無い。高速道路ならガソリンがある限り、眠くなるまで走り続けることができる。「1日1000キロ」はよく言われることだが、まさにそれを実感していた。ブレーキさえマトモだったら...その思いがいっそう強くなるが、起こってしまった事は仕方ない。現実的に対処するだけだ。

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